ぶくろう

「練習なんて必要ねーだろ」
「それには同意するけど、シズちゃんが本番で足引っ張らないか心配だなぁ…」
「あぁ？いいぜ足引っ張りまくってやるよ…俺の長い足でグイグイと引っ張られて追いつけずにコケろ」
血管が浮くほどこぶしを強く握り締めて、手を出す一歩手前で何とか静雄は自分の中の激情をおさえようと戦っていた。
「身長違う割には足の長さ変わらなかったりして、短足シズちゃん！」
だが笑顔で失礼なことを言い放った臨也に静雄の怒りが爆発した。
「殺殺殺殺…短いかどうか確かめてみろよ」
低い声で言うと静雄は臨也に向けて蹴りを入れようとしたが、間合いを見極められあっさりと臨也にかわされてしまった。
「ほら、届かないくらいだから短いんだね」
「…息の根を止めてやる」
静雄の殺気を全身に浴びながらもそれに怯むことなく、臨也は次の蹴りもなんなくかわして逃げ始めた。
「素振りの練習？」
「チィッ！」
二人はグラウンドで追いかけっこを始めた。
遠目に見ている分には仲睦まじそうではあるが、近くで見ると、とんでもない殺気をまとった鬼が食い殺しかねない様子で獲物を追いかけているといった様子だ。

「平和島！折原！体育の授業を何だと思ってる、まず体育着に着替えてこい！！」

そう叫ぶ体育教師の言葉も耳に入らないのか、はたまた無視をしているのか、制服姿の二人はグラウンドの端で睨みあう。
体育祭の練習をしていたクラスメイト達もその二人に注意を払っており、体育の授業は全く成り立たなくなっていた。
それもそうだろう…体育の授業から逃亡し単位を貰えなくなったり補習になることは避けたいが、学校中で有名な静雄と臨也の犬猿の仲コンビの巻き添えになることも避けたいところだ。
蹴りを繰り出すのを諦めたのか、静雄は手を伸ばして臨也の胸ぐらをつかんだ。
臨也も同じようにして、互いが互いの胸ぐらをつかみあった。
そして至近距離で視線をあわせて悪態をつきあう。
「シズちゃん、痛いから離してくれる？短足を訂正してダックスフンドって呼んであげるからさ」
「口が減らねぇな…」
眉間に深い皺を刻んだ静雄は、怒りのままに胸ぐらをつかんだ臨也の体を地面へと押し倒した。
単純に力の強さであれば静雄の方が強い。抵抗する間もなく臨也の背中が地面にぶつかった。
「ぐっ…」
地面に押し付けられて胸を圧迫された臨也だが、不敵な笑みを絶やすことはなかった。
「ヘラヘラしてんなよ…いちいち言動が気に障るんだよ、ムカつく」
「いやだなぁ、いちいち気になるなんてオレのこと好きなの？」
「は？」
突拍子もない臨也の言葉に静雄は一瞬固まった。
更にそれに続けて臨也は叫んだ。
「ホモにさかられちゃった！襲われるー！」
グラウンドどころか校舎の中まで聞こえそうな大きな声で叫んだ臨也に驚くも、その発言の内容に静雄の苛立ちが増した。
確かに今の体勢は押し倒して襲っているように見えなくもないが、全くの事実無根である。まず、自分は同性に惚れたことすらない。
「てめぇ…」
殴りかかろうと一瞬ひいた瞬間を見逃さずに、臨也は隠していたナイフを取り出して静雄のＹシャツを切り裂いた。
「な…っ」
そして素早く静雄の下から抜けだして距離をとって立ちあがる。
「明日からが楽しみだね、シズちゃん」
「は？何分からないこと言ってるんだ…」
そう言いながら静雄は立ちあがって臨也を睨みつけた。
「楽しみは明日に持ち越しかな…じゃあ今日は帰ろう、バイバイ」
そう言って身を翻して走り出した臨也の姿を逃がすものかと静雄は追う。
「逃がすかよ…！」
植木鉢などその場にあるものを手にしては投げながら追いかけるも、臨也はうまく全てをかわしてしまう。

その様子を見ながら体育着姿の新羅は呟いた。
「何かと息ピッタリだよなあの二人…二人三脚も期待できそう…」
それを聞いて門田が新羅に対して口を開いた。
「いや、二人三脚は初めてやってそう簡単にできるものでもないぞ」
「…そうだよね、あー自分で自分のこと消毒するのかぁ…」
転んで全身にかすり傷のできた新羅がグラウンドの真ん中にたたずんでいた。足は門田と片足ずつが結ばれている。
彼は自分自身についた傷によって、二人三脚が難しいということを先ほどから身をもって体験しているのだった。

続

ドタチンも同じ学年というか同じクラスでお願いしたい(←妄想として美味しいので)

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