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胸に立ちのぼる紫煙

 

「じゃぁな、腰砕け野郎」
「…っ、それはシズちゃんが激しくするから!」
「鍛え足りねぇんだろ」
「次会ったら殺してやる」
そう言うと、シズちゃんは口元に笑みを浮かべて後ろ向きのまま手を降って部屋を出て行った。
やれるものならやってみろ、とその背中が語っているようで苛立った。
玄関のドアが開いたすぐ後に、オートロックの閉まる音がする。
「はぁ…」
自分以外誰もいなくなった空間に溜め息を吐き出した。
ベッドから重い体を持ち上げると、鼻に嗅ぎなれた匂いを感じた。
「…シズちゃんの匂いがする」
特徴ある煙草のメンソール成分がやたらと鼻につく。
一度意識するとその匂いは余計に濃くなってくるように感じられた。
「換気しよう」
独り言を言いながら、ベッドから降りて何も纏わぬ体にバスローブを羽織った。
けだるい体はいやでも夜のシズちゃんとの行為を思い出させる。
ベランダに通じる大きな窓を開けたが、思わず香った匂いに顔を歪めた。
「…外の方が匂う」
端に置かれたテーブルに目をやると、その上に置かれた灰皿が目に入った。
オレは煙草なんて吸わないけど、肺ガンになって死んじゃえばいいと思ってるシズちゃんのために用意した灰皿だ。
外であるにも関わらず、ベランダ全体に煙草の匂いが充満していた。
「?」
突然胸に風が吹き込んだ気がした。
この感情に名前をつけるとしたなら…。
「寂しいのか?切ないとか思っちゃうわけオレは…ははっ」
思わず灰皿の置かれた机まで近付いて、その中にある吸い殻を一つ取り上げて口にくわえた。
「何やってんだ…汚いだろ」
ハッとして一瞬前の自分の行動に嫌悪を覚える。
吐き出した吸い殻は元の場所に吸い込まれるように着地した。
ベランダから部屋に戻り窓を閉め、ベッドの上に身を投げる。
「ふぅ…」
シズちゃんが去ったあとに残されたシズちゃんの匂いがイヤで、前に部屋中に消臭剤をまいたことがあった。
ボトル1つを空にするほどまいたにも関わらず、脳にこびりついた記憶が鼻に匂いを思い起こさせて消えることは無かった。
「あー…本当に…シズちゃんなんて大嫌いだ」

いつから一人の人間にこんなにも固執し、他の人間達へ向ける愛とは別の恋情…一人の男に恋焦がれるようになってしまったのだろう。

ほのかにシズちゃんの煙草の香る枕に顔を埋め、幸福と空虚の狭間に揺れながらとりあえず急ぎの仕事が入るまで惰眠をむさぼることにした。


 

乙女な臨也が書きたかった(反省はしている)
匂いネタ好き…別に匂いフェチとかじゃないと自分信じてる…。

 

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