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狂言ピエロ


※高校時代

 
 
「チッ、また遅刻した…」
平和島静雄が来神高校の自分の教室に着いたとき、教室はもぬけの空だった。
静まり返った教室には生徒達の学生鞄や筆記用具など物が多く置かれていて、皆が下校したわけではないことが伺える。
「体育か…今更行っても面倒くせぇ」
静雄は手を頭上に上げて体を伸ばすと、首を左右に倒して骨を鳴らした。
彼もしたくて遅刻をしたわけではなかった。
何故か登校中に妙な言いがかりをつけてくる輩達に遭遇してしまい、問答無用で殴りかかってくる青年達を正当防衛で全てなぎ倒してきたら学校に着くのが授業時間中になってしまったのだ。
「はぁ…寝るか」
あくびを一つすると、静雄は自分の席に座って突っ伏した。
暴れて減った体のエネルギーを補給するかのごとくすぐに睡眠のまどろみに揺られる。
 
「―――――」
 
夢の狭間で何かが聞こえた気がした。
だが強い眠気が勝ち、目を開けることなく静雄は睡眠を貪り続けた。
 
教室がガヤガヤと騒がしくなったことで静雄は目を覚ました。
眠さで半目のまま顔をあげると、体育から帰ってきたクラスメイト達が教室に溢れていた。
「静雄ー、また遅刻?」
「したくてしてるわけじゃねぇよ…」
話しかけてきた小学校からの腐れ縁である新羅に、眉間にしわを寄せながら静雄は答えた。
「怪我してる?診てあげるよ!」
「何で怪我してること前提なんだよ…普通は怪我してないか心配するところから入るだろ」
「どこ怪我してるの?」
「…生憎だが無傷だよ」
まるで怪我をしていることを望んでいるような変人さを持ち合わせている新羅の額に向かってデコピンをした。
静雄としては軽くやったつもりだが、常軌を逸した力を持つ静雄のデコピンは新羅の体を後ろによろめかせた。
「超痛い…静雄はいい加減自分の力の強さを自覚しようよ」
「知ってる」
静雄と新羅が話している最中、教室でざわめきが起きた。
何事かと二人がそちらに目をやると、何やら騒いでいる男子がいた。
「財布がない!」
あまり関わりのないクラスメイトのことだ、と静雄が新羅と他愛もない話を始めようとすると教室に不穏な空気が流れた。
「朝はあったんだよ…」
「ならさっきの体育の最中に?」
「皆がいないとき教室にいた人は…」
「…平和島君、いたよね」
突然教室中の視線を一斉にあびて、静雄は唾を飲み込んだ。
「は?」
根拠の無い言いがかりをつけられて、不機嫌になった静雄は眉をしかめた。
平和島静雄の喧嘩人形の噂を知っているクラスメイト達は恐怖を感じて普段静雄に関わろうとしなかったが、財布をなくしたという男が勇気を出して静雄に面と向かって話しかけた。
「どうなんだよ平和島」
「何が」
「俺の財布知ってるか?」
「知らない」
「じゃあ鞄の中見せろよ」
疑ってかかって引き下がらないクラスメイトを面倒くさいと思いながらも、鞄の中を見せれば済むならと静雄は机の横にかけていた学生鞄を机上に置いてチャックを開いた。
「なんだコレ」
不思議なことに静雄自身の鞄の中に見慣れないものが入っていた。
それを取り出すとクラスメイトが声をあげた。
「それ俺の財布!平和島…お前…」
「知らねぇし」
クラス中から自分に突き刺さる視線が疑いを持ったものから敵意を持ったものに変わった。
身に覚えのない状況に静雄は吐き気をもよおすような悪い気分になった。
シンと静まり返った教室。
その静寂を打ち破ったのは手を叩く音だった。
「何してるの皆、シズちゃんに濡れ衣着せることでクラスメイトの団結力でも上げようとしてるの?」
声を発した男子の方に教室中の視線が向かった。
そこには机の上に足を置いて座りながら手を叩く折原臨也がいた。
「でもそれはいけないなぁ、一人を除け者にしている以上クラス全員の団結とは言えないしね」
「折原…濡れ衣ってなんだよソレ」
財布を盗まれたと主張する男子が臨也の発言に噛みついた。
その男子を見つめ返して臨也は口を開く。
「確かにシズちゃんの鞄から君の財布が出てきたことは決定的な状況証拠だ…だが盗んだとして簡単に財布をこの状況で出すだろうか」
「逃げられないと思って観念したんだろ」
「まず君自身に恨みがあるというならまだしも、普通金が欲しければ金だけを抜き取ればいい、邪魔で足のつく財布を持っている必要があるとは思えない」
「それは…」
「そもそも体育のときに更衣室の鍵のかかるロッカーに貴重品を保管せずに教室に置いておいた君にも落ち度があると思うけどな」
「…っ」
「更に言っておくと、そこの平和島静雄君はずっと寝ていただけだよ…彼、恨みを買いやすい人だから誰かにハメられたんじゃないかな」
臨也は持論をまくしたてると男子に笑いかけた。
財布を持った男子は財布の中から何もなくなっていないことを確認し、誰に向けていいか分からない疑いはあるものの自分の非をわきまえて謝罪した。
「平和島…疑って悪かった」
「いや、別に…」
臨也が男子を言いくるめるのを静雄はただ見ているだけだった。
普段の自分への態度が気に食わなく嫌いな輩ではあるが、少しだけ臨也に対するその評価を改めてもいい気がした。
正直濡れ衣を着せられなかったことで気分が清々しくなった。
「じゃあそういうことで、せっかくの青春時代なんだからクラスで仲良くしようよ」
そう言うと臨也は席を立って教室を出て行った。
「あいつ次の授業サボる気か?」
臨也の後ろ姿を見送りながら静雄は呟いた。
静雄の席の前に立っていた新羅は少し考えてから口を開いた。
「ちょっと僕も行ってくるね」
「は?サボる気かよ…」
「すぐ戻ってくるって」
軽い足取りで教室を出て行った新羅の後ろ姿を見たあと、することもなかった静雄は再び机に突っ伏した。
 
 
教室を出た新羅は屋上へと向かっていた。
階段を上り正面の金属製の扉を開けるとそこには思った通りの人物がいた。
「臨也」
「やぁ、新羅もサボり?」
「君と僕を一緒にしないでよ、すぐに戻るよ」
残された休み時間は少ない…新羅は単刀直入に言った。
「あのさ…臨也も体育出てなかったよね」
「うん」
「さっきの騒動は臨也がやったの?」
「まぁね」
弁明するでもなくあっさりと自分の罪を認めた臨也を見て新羅は溜息をついた。
「静雄にちょっかい出すのやめなよ」
「だって楽しいんだもん」
「好きな子ほどイジめたいなんて、小学生のやることだよ」
新羅の言葉に臨也は顔全体で不愉快さを露わにした。
「何言ってるんだよ、シズちゃんなんて嫌いだよ」
「…そうは見えないけど」
「でもシズちゃんの表情とか一挙一動を見てると楽しいんだよね」
口で三日月の弧を描き臨也は言った。
 
「オレを楽しませてよシズちゃん」
 
それは男子生徒の財布を、寝ている静雄の鞄に入れたときにかけた言葉と同じ。
 
臨也の浮かべる笑みを気持ち悪いと思いながら、新羅は親友二人の関係を知らぬが仏と屋上をあとにした。
 
 
 

 
 
 

無駄に長い\(^_^)/
来神時代美味しい…。

 

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